2024.2.14 バレンタイン大作戦

先週の帰り道、いつも同じ家の前を通る時に焦げたクッキーの匂いがしていた。本番に向けて毎晩練習していたのだろう。懐かしくて仕方がなかった。私もその匂いを知っている。
何度やっても上手くいかなくてヤケになった私が焦げたまま渡したクッキーを、当時好きだった人は焦げているね、苦いな、と言ってバリバリ食べていた。



今年の3月から、入籍にあたって戸籍謄本が要らなくなるらしい。でも結婚記念日は忘れにくい日がいいから、入籍は彼が提案してくれたバレンタインデーになった。大安だし。
私はバレンタインデーが大好きで、夫は甘いものが大好きなので、ちょうどいい。役所は空いていて、拍子抜けした。手作りのお菓子を人に渡すのは、高校生の時以来だった。

結婚を機に競馬をやめようと思っていたのだけれど、友達にやめないでよ!と言われて、思いとどまった。何かを一つ捨てないと、何かを手に入れてはいけないような気持ちになっていた。
そもそも結婚したからといって何かが手に入るわけではないし、生活も変わらないのに、この気持ちはなんだろう。

人は、結婚しようが子供を作ろうが、孤独なままだ。そうじゃなかったら困る。誰かと番うだけで孤独を奪われるのだとしたら、それは恐ろしいことだ。私は、安心したまま寂しくありたいのだから。
私たちの命が輝くのは私たちがみんな孤独だからだ、私たちは独りだからいつも新しく、楽しく、清新さを保っていられる。それぞれが独りじゃなくなったら、夫婦も家族も急に楽しくなくなるだろう。友達だって同じだ。
寂しいのはあなたがいるからで、寂しくないのはあなたがいるから。
私、ずっと忘れたくないよ。私たちが夫婦じゃなかったとしても、あなたや私がこの世に存在するということそのものへの祝福を。
でもね、それでも家族でいたい。家族が何なのか私にはまだ正確に分からないけれど、大きな災害が起きた時や、それぞれが外の世界で傷ついた時に、寄り添っていたいよ。

ねえ私が月に帰る時には、梯子をお願いね。私だけの庭師であり、私だけの騎士よ。
約束は一つだけ、私より先に死なないで。私を安心して孤独でいさせてくれるのは、この世であなた一人だけなのだから。