ももちゃん

ももちゃんが亡くなった。

夜、いつものようにダイニングで過ごして、さて寝るかとももちゃんにご飯をあげようとした時、なんとなくおかしかった。
ご飯をあげようとしても、寝ていて起きない時は今までたくさんあったし、ほんとになんとなく、おかしいだけだった。

呼吸はしている。つついてみる。起きない。
上の窓から見てみる。目が開いてる。あ、変だ。と思った。
ダイニングの電気を暗くした。
ねえねえ、ももちゃんおかしいかも、具合悪いのかも、と言う。テーブルの上にケージを乗せて、上のカバーを取って2人で見てみる。
たまに痙攣するように少しだけビクッと動く。てんかんか?とも思ったけど、なんとなく違うなとも思った。
よく見ると下痢をしている。昨日まで元気だったのに。濡らした綿棒でお尻を拭いてあげようとすると、少し反応した。
対処法を検索する。保温、とか、基本的なことが出てくる。小動物がこうなった時に人間にできることは、実際ほとんど無い。文鳥が死ぬシミュレーションを何回もしているから知ってるはずだった、でもあがくしかなかった。
綿棒でお尻を拭きながら、ももちゃん、と呼ぶと、横たわっていたももちゃんが、少しだけ首を上げてこちらを見た。目が合った。挨拶だ、と思った。
私たちに挨拶を済ませたももちゃんは、また横たわった。
静かに、お腹が動かなくなった。
ピンク色だった口元や足がみるみるうちに紫になっていくのを見て、あ、死んじゃう、死んじゃった、と思った。不思議と目はキラキラ輝いたままだった。撫でる。瞼を閉じさせてあげたくて、でもなかなか閉じない。何度も撫でて、なんとか閉じた。
生きている時は、ストレスになると思ってなるべく体を触らないようにしていた。触る。温かく、なくなっていく。あっという間に死後硬直が起きた。小さな体だから。小さな体で、熱い体で生きていた。まだ魂がそこにあるのが分かった。ケージを戻して、いつもそうしているように巣箱で眠らせた。
明日、お墓を準備しなくちゃ。そう呟きながら自分の部屋へ行くと、泣いている私を見て、るいちゃんが首を傾げた。
ももちゃん死んじゃった、と言うと、ピ、と返ってきた。

ももちゃんは2年と数ヶ月生きた。ちょうど2年前、私が1ヶ月くらい地元に帰っていた時に、寂しくて、友達が欲しくて、ペットショップに走って衝動的に買ったのが彼女だ。
子供の頃は、いくら食べても太らない、スリムでおしゃまな女の子だった。おばあちゃんになってからも、たくさん食べた。最近は少し食が細くなっていたけれど、亡くなる前日はご飯を完食していた。
私がももちゃんの異変に気付いてから彼女が亡くなるまで、20分もかからなかった。
ももちゃんは、たぶん、待っていた。私がいつもご飯をあげる時間を知っていたから。それまで生きててくれた。看取らせてくれた。挨拶をしてくれた。強くてかっこいい子だった。

2年間、一緒に生きてくれてありがとうございました。あなたのおかげで文鳥たちが寝た後も、寂しくなかったよ。一人暮らしの間、夜にお化けが出るのを怖がらずに眠れていたのは、ももちゃんが毎晩回し車を回していてくれたからだったよ。
またどこかで会える日を楽しみにしているね、ももちゃん。