FALLING


花屋で働いていたころは、毎日花を踏み潰しては綺麗綺麗と喜んでいた。
働きはじめたときは茎を切るのでさえ躊躇していたけれど、ひと月も経てば花は私の遊び相手になった。
私はいつも遊び相手を探している。遊んでくれるやつが大好きだ。
1人で遊んでいるように見えても、ちゃんと相手がいる。ブロック塀、木、太陽、ラーメン、コンクリート、硬くても軟くてもいい。
遊び相手欲しさに子供が欲しいと思ったことすらあった。でも自分が女だから諦めた。子供と友達になれるのは父親の特権な気がする。

夜だった。深夜。突拍子もなく、将来の夢は、と聞かれた。
私はいつも部屋の壁を見て考え事をしているから、こういう質問にはすぐに答えられる。
その夜に腐った桃のような大きなあざができた私の太ももは、10日経つと巨大で美しい完璧なそれにすっかり戻った。一生治らないのでは、と不安に思うほど鮮烈に刻まれたように思われたが、人に見せようと太ももをあらわにするとすでに消えてしまっていた。
たいていのことはそういうものだ。忘れたくなくても忘れてしまうし、そういうことの繰り返し。

そうそう、夢。無事死ぬこと、と答えた。
大きなトラブルなく天寿を全うしたい。仕事クビになったりせず、病気にもならず、できれば長生きもしたい。それは私の性質上叶いにくいのだろう、でも願わずにはいられない。退屈すぎて死んじゃった、くらいの人生がいい。
私の人生はいつも何かが起きすぎる。誰かが映画を撮っているのかもしれない。
おかげでたいていのことには驚かなくなった。もともと刺激に弱くびっくりしやすい体質であるにも関わらずだ。もうどうでもいい。いちいちきちんと反応していたら身がもたない。
それでもたまに、魔法にかけられたように世界への興味を掻き立てられるような存在に出会うこともある。
ここ最近の私の集中力や好奇心は異常で、1日に何冊も本を読んで、天井を見ながら5時間も6時間も考え事をしている。洗濯もやらず運動もせず昼夜逆転していてどうしようもない。人からの連絡もほとんど無視している。電話にいたっては通知を切っている。電話は一方的にリンリン鳴るから暴力みたいで怖い。心臓に悪い。LINEやメールでアポ取ってから電話くれる人は分かってくれてるなあと思う。
こうなるのが嫌だから、何かに集中したり世界に向き合うことをなるべく避けてきたけれども、もうしばらくは止まらないだろう、破綻して周りに誰もいなくなるまで止まらないかもしれない。残ってくれる人は大事にしたい。

せめて映画の最後が陳腐で退屈であることを祈る。